大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和41年(ラ)586号 決定 1967年1月21日

抗告人 遠藤利子

右代理人弁護士 藤井英男

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告人は、「原決定を取消し、さらに相当の裁判を求める」旨を申立て、その理由として、別紙抗告理由書記載のとおり主張した。

よって按ずるに、共有物分割の訴は、共有者間において共有物分割の協議が調わない場合にその分割を求める訴であって、分割を認容する判決の確定によって創設的に目的物の分割が形成されるが、訴訟物をなす請求(形成要件)が法定されておらず、分割の方法について裁判所は当事者の申立に拘束されないために、一般に形式的形成訴訟と呼ばれている。共有物の分割は、現物による分割を原則とし、右のごとく、分割の判決が確定すれば共有者間に各単独の所有権の目的、範囲が確定し、分割の効果が形成されるから、改めて強制執行により判決の結果の実現を図る必要は存しない。現物による分割が不可能であるか、著しく目的物の価値を損ずる惧れがあるときは、裁判所は民法第二五八条第二項の規定により競売を命じ、換価による売得金について分割を命ずることができるが、この場合においても、右の理に異るところはない。この場合、競売は分割の手段に過ぎず、換価の方法を競売に限定するとともに、売得金について創設的に分割の効果を生ぜしめんとするものであって、競売を命じても、そのような請求権、従ってこれに対応する相手方の給付義務の存否を確認し宣言することを目的とするものではないのであるから、右のごとき判決がなされた場合に、これに基づく競売の実施は、広義での判決の執行ということはできるとしても、これをもって、右判決の狭義における執行力の直接の効果であると解することはできないものといわなければならない。従って、右判決に基づく目的物の競売は、勝訴の当事者の申立により、競売法の規定によってこれを実施するのが相当で、この場合競売の申立が民法の規定によるものであるとするになんの妨げもないというべきである。抗告人がこれらの諸点について主張するところは、右と異なる立場からする独自の見解に基づくものであって、とうてい採用することができない。また、共有物の分割は、共有者全員についてこれを行うのでなければ不可能であり、共有者全員につき合一に確定する必要があるから、共有物分割の訴は、必要的共同訴訟であって共有者の全員が訴え又は訴えられることが必要である。しかしながら、すべての共有者が相互の間においても、常に、当事者として相対立する関係になければならないものではなく、分割に同意しない共有者の一人を被告として、他の共有者全員が共同して分割の訴を提起した場合には、必要的共同訴訟の権利保護要件は充足されるものといわなければならない。記録に綴られている判決正本(第四丁)によれば、抗告人主張の判決においては、共有者全員三名のうち、二名が原告、一名が被告となり、しかも右原告二名の間においても配分の割合が定められていることが明らかであるから、なんら違法の点はない。従って、右判決が無効であることを前提とする抗告人の主張も理由がない。

本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告審での手続費用は民事訴訟法第九五条、第八九条に則り抗告人に負担させ主文のとおり決定する。

(裁判長判事 吉田豊 判事 江尻美雄一 園田治)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例